映画「王立宇宙軍 オネアミスの翼」を改めて観た(BW)
この記事は、2018年1月22日のシーサーブログの記事に加筆をしたものです。
作品概要・あらすじ・どこで観れるか
作品概要
「王立宇宙軍 オネアミスの翼」は、若き制作集団「GAINAX(ガイナックス)」制作のSFアニメ映画。1987年3月14日に公開された。
「GAINAX(ガイナックス)」の母体は、日本SF大会のOPアニメを制作するために集まった学生クリエイター集団「DAICON FILM」。当初はOVA(ビデオ販売のみ)だったが、バンダイへの売り込みが成功し、2時間の長編アニメ映画を制作することになった。
あらすじ
主人公シロツグ・ラーダットは、戦わない軍隊「王立宇宙軍」の兵士。
30年の歴史を誇る宇宙軍も、今や政府に見放され、人間どころか人工衛星すら満足にあげられなくなっていた。シロツグは、宇宙への夢も遠ざかり訓練もサボり気味になっていた。
そんなある日、街で神の教えを説くふしぎな少女・リイクニに出会ったことで、シロツグは良い所を彼女に見せたくなり、訓練を再度チャレンジしようと考えた。シロツグは仲間の兵士の反対にもめげず、宇宙パイロットに志願してしまったのである。
かくして「王立宇宙軍」の威信と名誉挽回の宇宙飛行計画が開始された。
「王立宇宙軍 オネアミスの翼」はどこで観れるか
・Amazon Prime Videoでレンタルで視聴できます。
・TSUTAYAやゲオなど、全国のレンタル店でも借りることができます。
・気に入った方は、ソフト購入もおすすめ!
感 想
年を経るごとに味わい深くなってくるスルメ映画
何度目か忘れましたが視聴。
やっぱりいい。
年を経るごとに味わい深くなってくる。
…な~んてことをオタクブログでは書くところから始まって細かいディティールの作り込みとか異世界の雰囲気とか意匠とかの話になっていくんでしょうね。
その辺はもう省略。
当時のガイナックスの立ち位置とか、素人同然の集団が大資本から8億円もの予算を引っ張ってきてこれだけの力作を作り上げてしまった情熱と熱意とか、今ではアニメ界のビッグネームがずらりと並びまくるエンドクレジットとか調べればいくらでもウジャウジャ情報はあるのでそっちで読んでください。
思い出に浸りたい方におすすめ動画
でもって、「すごかったすごかった」思い出に浸りたい方はこちらの動画なんかいいんじゃないでしょうか。1時間超と長いですが、通勤・通学または夜寝る前など、イヤホンで音声のみで聴いたりするといいですよ。
公開当時のこと
公開は1987年。
世間では「機動戦士Zガンダム」とかやってる頃。
今でこそスタジオジブリがぶいぶい言わせてる時代から更に進んで、「時をかける少女」の細田守監督の新作がどうこう、遂には「君の名は。」なんてオリジナル大ヒットソフトまで排出するに至る「アニメ映画」ですが、この当時の「アニメ映画」なんてのは世間的には「東映まんがまつり」くらいの認知度しかありません(ちと大げさ。
何しろ今じゃ名作扱いされてる「カリオストロの城」
も公開当時は大コケで、宮崎・大塚コンビはこの責任を取らされて数年間は干されたも同然の憂き目に遭います。当時の観客は脳の代わりにプリンでも詰まってたのかと思われるかもしれませんが、そもそも「そんな映画やってるなんて知らなかった」というのが実態に近いでしょう。
そしてアニメファンもこの頃は「アニメ映画といえば、宇宙船とかメカの出てくるSFもの」というイメージがあるので、「ルパン三世」のアニメ映画観には行きませんでした。
有名なのが「天空の城ラピュタ」で、ジブリアニメ第一弾(ナウシカの頃はまだジブリではないです)なんですが、ジブリ史上最大の大赤字。
要するに「劇場でちゃんとしたアニメ映画が掛けられている」という認識そのものがありませんでした。
何度も槍玉に挙げて申し訳ないんですが、「東映まんがまつり」あたりの「お子様向け」コンテンツは論外。実は名作ぞろいの「ドラえもん」もありますが、映画ファンが本気になる素材じゃありません。
何しろ「宇宙戦艦ヤマト」やら「機動戦士ガンダム」ですら「総集編」ですからね。劇場で掛かってるのは。
よくもこんな時代にこんな意欲作を劇場で公開したもんだと思います。
当時子どもの頃、この作品をビデオで観た印象
田舎者だった私は当時劇場で見ることは叶いませんでしたが、アニメ雑誌などは盛んに読んでいたので存在は知っていました。当時のビジュアルイメージはこんな感じ。
これだと、割と「普通のアニメ」っぽく見えるんですよ(爆。
恐らく当時視聴したのはレンタルVHSテープ(レンタル代400円くらい?)だったと思われます。日曜日のお昼だったんじゃなかったかな。はっきり覚えていないけれど、当時中学2年生くらい?に視聴したと思います。
…全く訳がわかりませんでした。
殆(ほとん)どBGMも無い。主人公はボソボソとナレーションを続ける華もなければやる気もないやつ。
そもそも主人公の動機も行動原理もわからない。下手するとこの連中が何をやってるのかもわからない。
確かに、映画の最後「ここでやめたらオレたちゃなんだ。タダのバカじゃないか」近辺の打ち上げシーンの盛り上がりは感動的ではあるものの、それ以外は全く理解不能。
当時の印象は最悪でした。
何しろ説明不足な映画です。
何度も見ているので、主人公のシロツグがパイロット志願するのはリイクニにいいところを見せようとして…要するに「モテたい」からなのもわかります。
劇中、やっと盛り上がるポイント来た!と思えるバイクでの疾走シーンも、リイクニの自宅が取り壊された後にやっと到着するだけ。
主人公が余りにも無力で何が何だかわからない。
かと思うと、いきなりのレイプ未遂。
アニメ映画といえば「ドラえもん」くらいしか見たことがなく、まだまだ「一般の」映画も数える程しか観ていなかった子供には「感情移入できるポイント」が全く無い映画でした。
改めて思うのですが、この映画が初見の印象がどうしても不愉快なものになるのがこの「レイプ未遂」場面の存在かと思われます。意義については後述。
そもそも全体のトーンが平板で非常に眠くなります。
…以上が子供の頃の印象。
大人になってから観てみると、印象が変わった
これが、大人になってから再見してみるとまるで違います。
全体が平板なトーンに見えはしますが、きちんと笑いどころもあって画面から目が離せません。
とにかくストーリー展開には全く必要がないディティールに鬼のようにこだわりまくっており、「棒状の貨幣」という他のフィクションでは一度も見たことも聞いたこともないギミックなどに関心しきり。
今回の視聴でやっとわかったんですが、これは「少年漫画」じゃないんです。
そういう言葉は多分無いんですが「少年漫画」「成人漫画(エロとか)」に対して「青年漫画」ってありますよね。
それのアニメ版というか、「少年アニメ」に対する「青年アニメ」なんですよ。
「少年アニメ」の場合、恐らく主人公の行動原理は明白で、友情・努力・勝利みたいな展開になるはず。
あらゆる場面に意味があり、因果がある。頑張れば報われるし、敵も明白。何が起こっているのかははっきりわかる。
「王立宇宙軍」はいろんな出来事は確かに起こるんだけどどれも淡々と流されて行って過剰に意味も無い。主人公がリアクションしたりもしない。
これは媒体がアニメだから違和感があるのであって、恐らくSFでなくして実写だったならば、非常によくある「青春映画」として成立していたと思います。
例えば「少年アニメ」だった場合、飛行訓練で空軍に行った時に馬鹿にされて入り乱れて大乱闘になる場面は「有機的に」その後に繋がると思うんです。
例えばここで殴り合った空軍の連中と友情が築かれるとか、あるいは仲間との絆がより深くなるとか。
ところがここでは胸ぐらを掴まれたシロツグが相手の顔に思いっきり嘔吐してしまう…という笑いどころとして処理されていてそれ以上でもそれ以下でもありません。
大人になるとこの場面がものすごく染みます。
現実はちょっとした事件だけで大人の関係性が劇的に変わったりなんかしません。
当時の「アニメージュ」では賛否両論…どころか八割は「非」という印象でした。
曰く「宗教が表面的で意味がない」とか。
非常に青臭い理論で、あれは単なる背景に過ぎません。あそこで開陳されている宗教の意味を過剰に読み解いたところでそれほど理解の助けにはならないでしょう。
ルドガーハウアーがアドリブで言い放った「タンホイザー・ゲート」とか「Cビーム」を解析するみたいなもんです。
キャラクターへの感情移入を要件とする「アニメ」という媒体で、この突き放したスタンスの距離の作品というのは今も非常に珍しいと思います。
各種「少年漫画」論理の「少年アニメ」は当然「近すぎる」し、かといって今敏監督の映画みたいにほぼ実写の論理となると突き放し過ぎていて「遠い」んですよ。
冴えない顔だのなんだの言われてますが、貞本義行デザインのキャラクターたちは適度に「アニメっぽさ」の印象を残していて、所謂(いわゆる)「大人向けアダルトアニメ」に比べれば非常に親しみやすい雰囲気。これが「普通のアニメ」っぽく見えるから誤解されて、実際見てみると「あれ?」ってことになるんだよなあ…。
過剰に近すぎず、かといって遠すぎない。
この「心理的スタンスの距離」という意味では「王立宇宙軍」というアニメはある意味空前絶後なのかもしれません。これに似たアニメはあまり無いと思います。
臭い言い方ですが「青春アニメ」という感じ。
繰り返しますが「少年アニメ」じゃなくて「青年アニメ」ね。
小学生が主人公ならロボットに乗れば自由自在に動かせて敵宇宙人を倒せるでしょう。しかし、大学生や新成人はそういうわけにはいかんのですよ。
大人の論理に振り回され、かといって現実社会に影響力があるほど高い地位にいるわけでもない。
子供の頃は「宇宙軍の年間予算を半分にするだけで三万人のホームレスに家を提供できるんですが?」という嫌味なジャーナリストの意味が全くわかりませんでした。
これも「その後につながらない」シーンの一つで、シロツグは反論するでもなくその場を立ち去るだけ。少年アニメなら「何だと!?」と言って殴り掛かったり、「でも仕方がないじゃないか!」と泣いたりすると思うんです。でもそうじゃない。
レイプ未遂場面にしても、およそ「アニメの主人公」はおのれの「性欲」を自由に開放することはしません。食欲くらいならいいんですが、ヒロインの立ち位置の女の子を押し倒すなんて言語道断。
しかし、これが「青年漫画」ならもしかしてだし、「実写の青春映画」ならさもありなんでしょ?
改めて見ると、思い切おっぱい丸出しにしてるこの場面の生々しさはかなりのもの…にも関わらず「殴り倒す」ディティールが結構漫画っぽいし、その後の対応も肩透かしで「逃げたな」とは思います。アニメの限界でしょうか。
とはいえ、この場面がどのくらい画期的だったかは私なんぞが言うまでもありません。どっちの意味でも。
このくらいにしましょう。
とにかく3周くらいしないと良さがわからないアニメ
とにかく、3周くらいしないと良さがわからないアニメです。
少なくとも「何か面白いアニメない?」と言ってきた人にいきなり薦めたりは絶対にしません。
耳にタコができるほど「一般的な意味でいう『娯楽性』は殆(ほとん)ど無いからね?」とあれほど断った上で一緒に視聴したのに妻は「つまんない」と文句ブーブーでした。
余りにも、前途あるしかし勢いだけの馬鹿(褒め言葉)な連中が死に物狂いで作り上げた情熱の結晶を、存在意義すら何もかも全否定するかのような罵詈雑言が続くので、決して熱狂的にこの映画に入れ込んでる訳でもない私ですら頭に血が上って殴りかかる寸前でしたから。
1回目に観た時は、私は眠くなっちゃいました。ストーリー運びが平板で、音も静かで淡々としてるし、森本レオさんの良い声を聞いてると、子守唄のように・・・すみません。
とはいえ、無理もないと思います。
私は何度も見ていてストーリーを完全に把握しているから細かいディティールに目が行くのであって、およそアニメ映画で主人公がレイプ未遂をやらかしてこれといった制裁を受けることもなく「なんとなく」見過ごされるなんてことはありえないでしょう。
私は大人になってから観たので、レイプ未遂は特に気になりませんでした。世界観の作り込み等はもの凄いんですよ。もう少しアクションシーン等で眠気を飛ばしていただければ私のような者でも起きていられたかも。
アニメファンはきっと絶賛するでしょうし(その気持ちもわかります)、「名作」「傑作」言うでしょう。
しかし、いきなり観たそこのあなたが「…?何だか全然つまらんぞ…?」と思うのも自然です。
はっきり言って「面白く」は無いです。
プロデューサーの岡田斗司夫氏も「意図的に平板な展開に見えるようにした」と言ってますからその印象は間違ってないんです。
恐らく、この作品の良さを損なわないようにもっと娯楽性を高める改変は不可能ではないと思います。いや、娯楽性という以前に「わかりやすさ」をね。
ただ、この「青臭さ」もこの映画の最大の魅力なので、そこをいじってしまったらどれだけ「一般的に言う『いい映画』」になったとしても「意味がない」気もまたするんですよね。
やはり見直してみると唯一無二の映画だと思います。
追伸
個人的にはもう滅びてしまった「二段影」を堪能できるアニメ映画というところも珍重したいですね。
画面の雰囲気が何もかも懐かしくてそれだけでも80年代のアニメファンには号泣もの。劇場映画なので現在のテレビサイズにも対応した横長画面というのも泣かせます。
映画の音楽を担当した坂本龍一さんが、2023年3月28日にご逝去されました。心よりご冥福をお祈り致します。
確かに、2回目を観た時の方が良かったです!スルメ映画。ラスト5分間がとても美しくて好きでした。まだ未見の方は、(コーヒーなどを用意して)ぜひご覧ください!
2回目観てくれて良かったー。大人にはとても染みる映画、皆さんもぜひ観てみてください。