ルパン三世創作秘話ともいえる漫画「ルーザーズ」全3巻の感想(BW)
感想はぶらっくうっどが書きました。よろしくお願いします。
漫画「ルーザーズ」はこんな人におすすめ
- 「ブラックジャック創作秘話」が好きだった人
- 「漫画アクション」の歴史に興味がある人
- ルパン三世が好きな人
漫画「ルーザーズ」感想
概要
作者は「ブラックジャック創作秘話」の吉本浩二先生。2018年4月28日に双葉社から出版された。全3巻。
あらすじ
日本で最初期の青年漫画誌といわれている「週刊漫画アクション」は、1967年7月に発行された。
その約2年前、後の初代編集長である清水文人は、「漫画ストーリー」編集長として新しい漫画を世に送り出そうと悩んでいた。そんな中、ゴミ箱から拾い上げた一冊の同人誌に「何か」を感じた・・・。
徹底した取材で紡ぎだされる「漫画アクション」創刊秘話。
著者の吉本浩二先生が書いた他作品について
吉本浩二先生といえば、漫画「ブラックジャック創作秘話」
「ブラックジャック制作秘話」同作はかなり話題になりました。
手塚治虫先生は、日本漫画界の礎を築いた巨人です。
ありとあらゆる漫画ジャンルは既に手塚先生が描いていたとすら言われます。
手塚治虫に憧れて我らが藤子不二夫先生も漫画家になったのですから私にとっては足を向けて眠れない偉人です。
ちなみに藤子先生はデビュー当時は「手塚先生には及ばないけども」と言う意味でペンネームの苗字は「足塚不二夫」としていました。
その藤子先生が自らの体験を描いたのが「まんが道」で、これは事実上「漫画家マンガ」のスタンダードとなりました。
その後の多くの「漫画家マンガ」は「青雲の志を持った若者が苦労しながら頑張る」定型をなぞり続けました。
実は我々が「手塚治虫」について知っていることはほぼ「まんが道」によってもたらされた情報によるところがあります。
手塚先生の部屋をもらい受けた「藤子不二雄」の二人がどんどん活躍していくのは皆さんご存じの通り。
ではその後手塚治虫がどうなっていったのか…については実は余り語られません。
手塚先生がお亡くなりになったのは1989年(平成元)年。享年はたったの60歳でした。
それこそWikipediaには生涯を通してずっと一線級の売れっ子だったという風に書いてあるのですが、決してそういう訳ではありません。
1974(昭和49)年生まれの私にとって子供の頃最もアツかった漫画といえば、間違いなくそれは「ドラえもん」であって、一連の手塚漫画ではありませんでした。
正直「手塚漫画」は一昔前のそれであって、あと…ここだけの話、あの画風は何となく気持ち悪かったのです。
そこは「ドラえもん」で純粋培養されたガキだったので仕方がないですね。
ともあれ、「ブラック・ジャック」の連載が始まるその時期は正に「忘れられた漫画家」状態だったのです。
それが不死鳥の様に「復活」する下りを描くのが「ブラックジャック制作秘話」でした。
「まんが道」やありがち手塚漫画が描いてきた「恐ろしいほど売れっ子で、編集者はみんなヒドイ目に遭った」式のお話はあくまでも「全盛期」のお話。
手塚先生の「全盛期を過ぎた時代」を描いたのが斬新でした。
多くの関係者のインタビューを元に構成されたドキュメンタリー調のコミック。
独特の牧歌的な絵柄も印象的で、実写ドラマ化も成し遂げた「新たなる手塚治虫漫画」それが「ブラックジャック制作秘話」でした。
漫画「定額制夫のこづかい万歳」も有名
その後、作画担当の吉本浩二氏が話題になったのが「定額制夫のこづかい万歳 月額2万千円の金欠ライフ」というなんともデフレ時代を象徴するような貧乏くさいコミックでした。
何しろ居酒屋に行く金額を節約するために、駅の隅っこに突っ立ってカップ酒を飲めば節約になる…などという調子なので、流石にこんなことばっかりやってたんでは経済が回らなくなるぞ…と読んでいて泣きそうになります。
そんな中、同作者の「ルーザーズ」が異様な評判になっていることを知ります。
「ルパン三世制作秘話」ともいえる漫画「ルーザーズ」について
「負け犬たち」という刺激的なタイトルのこの漫画は、分かりやすく言えば「ルパン三世制作秘話」です。
そう、あの今もアニメで大人気の「ルパン三世」ですよ。
「週刊漫画アクション」の初代編集長である清水文人の刺激的な人生を「ブラックジャック制作秘話」でやったようにドラマチックに漫画化しようと企画が立ち上がるも、色んな人に取材する内に「これは「週刊漫画アクション」が創刊されるまでを描くのが一番面白いぞ」ということになったのだそう。
具体的にはモンキー・パンチとバロン吉本を中心にした「週刊漫画アクション」の創立秘話です。
「ブラックジャック制作秘話」と違い、インタビューされた人が合間に出て来たりはしません。
「週刊漫画アクション」の成立について描かれた漫画
日本初の「週刊」漫画雑誌は今も続く「週刊少年マガジン」(講談社)です。
多くの「週刊誌の成立」ものは「マガジン」と後発の「サンデー」を題材にします。
あっても「チャンピオン」今は無き「キング」くらい。
かなり遅れての「週刊少年ジャンプ」くらいまで。
実は今も続いていて「この世界の片隅に」を産んだ「週刊漫画アクション」にフォーカスしたフィクションは無かったでしょう。
何しろ「ブラックジャック創作秘話」のように「押しも押されもしないかつての大作家である手塚治虫に新連載を始めさせる」のとはわけが違います。
タイトルの「ルーザーズ(負け犬たち)」は当時の編集者たちの追い込まれた立場から付けられたそうです。
舞台となっている「双葉社」には「望んで入社した」社員はほぼおらず、他の出版社全てに就職が叶わなかったために集まっていた落ちこぼれ集団。
社長は漫画なんかに全く関心のない典型的な商売人。ただ「売れそうならやれ」という人。
そこを突いて、新し過ぎて誰も受け入れようとしなかった「モンキー・パンチ」を見出し、彼を中心に漫画雑誌のコンセプトを構成していきます。
こういう「若者たちが苦心惨憺して新しいものを作り上げ、時代がそれを受け入れていく」お話は、非常に読んでいて気持ちが高揚してきます。
*以前感想でとりあげた漫画「スティーブズ」もそういった話でした。
モンキー・パンチという、ぶっ飛んだペンネームも編集者が勝手に付けたそれで、結局そのままになったということが分かったりします。
週刊少年ジャンプなどと違い、ポピュラリティがある作品はほぼ「ルパン三世」しかありません。
しかも多くのファンはアニメを見たことはあっても、「漫画版」となると馴染みが無いことでしょう。
にもかかわらず、極論すれば「編集者版・まんが道」という感じで本当に面白いんです。
全3巻とコンパクトなのも読みやすくていいですね。
面白いので、もっと宣伝を頑張って欲しい!
アマゾンカスタマーレビューもほぼ絶賛一色。
面白いのが「こんなに面白いんだから、宣伝方法とかもっと工夫しろ」とか「アピール方法を考えて!」みたいな具合に、単に褒めるんではなくて「応援したい」という気概にあふれています。
まとめ
初代編集長である清水文人氏をはじめ、多くの登場人物は「文学青年」で、常にそういう話をしています。
現在でも5割程度の大学進学率、この漫画の当時となれば1~2割もないでしょう。
その時代に大学を卒業し、大手出版社に勤めるなんて人はそりゃもう知識と教養にあふれています。
ただ、漫画で描かれているからかもしれませんが、どうにも痛々しいんですよ。
あるいは「青臭い」と言ってもいい。
高邁な理想を掲げて、日々「文学」に親しみ、居酒屋で論争してみてもやっていることは「マンガ雑誌の編集」ですからね。
私は「革命を信じていた」全共闘世代は、その後「団塊の世代」となって日本をメチャクチャにした罪深い世代だと思っていますけど、それでもその熱い「魂」は共感はしますよ。
そんな時代に漫画界を駆け抜けた編集者たちのドラマ、そりゃ面白いでしょ。
各巻末に収録された関係者のロングインタビューも時代の生き証人といったところ。
思わぬ佳作を発見と言う感じですね。
電子版なら簡単に手に入りますので是非どうぞ!