漫画「EDEN 〜It’s an Endless World!〜」全18巻完結 の感想・後編(BW)
(EDEN感想・前編 からの続き。ここから感想・後編です。ちょっとだけネタバレあり?・・・といいますか、コミックス18巻までの感想なので、途中経過の説明でネタバレになるのはご了承ください。)
↓途中経過のネタバレは嫌だよ、と言う人は、コミックスを読んでからご覧ください。
記事を書いている人は、BWです。
感想(後編)
実は、「いつの間にか主人公が次世代に交代して」いた
先ほど説明していた「ゲリラ一行」と主人公が出合い、必然的に戦闘に巻き込まれて行くのですが、どうも違和感があります。
実は、「いつの間にか主人公が次世代に交代して」いたんです。
よくよく考えてみれば、金髪と黒髪だし、名前だって違うので(そっくりですが)気付かない方がおかしいとは言えます。
現在、無料公開されている第一話で読むことが出来る「第一話」(第1巻116ページまで)で「前世代」のお話(敢えて言うなら「エンノイア(エノア)編」)は終わりです。
まさかあの最初の主人公が「実は滅びていなかった」文明に出合い、子を為してその子が成長して美しいポエムを紡ぎながら一人旅をしていて…なんて、もう少し説明してくれないと分かりません。
もっと言えばこの時点で主人公の父親…つまりは純粋無垢な人類最後の少年…が「麻薬組織の“大物”」として南米地域に君臨している…という悪夢みたいな「設定」を噛み砕いて欲しいのですが、情けないことに私がその情報が読者として脳内でリンクしたのは連載開始から数年は経過した頃だったと思います。
↑全巻を読み進めるうえで大事なポイントなので、図でまとめてみました。
第1部のエンノイア(エノア)の子供が、第2部のエリヤなのですね(そっくり)。
先代と違って、良くも悪くも人間臭い新主人公
この「新主人公」の方はまるで天使か妖精みたいだった先代と違って、良くも悪くも人間臭く、下ネタ下品ギャグまでやります。
それを先代だと思い込んだまま「随分変わっちゃったなあ」「すっかり汚れちゃったなあ…」などと思って読んでいたと思うと顔から火が出そうです。
第1巻117ページから始まる(というか残り全部ですが)「エリヤ編」の序盤の「詩のような」展開で世界を彷徨い、生きとし生けるものに瑞々しい感受性を向けていたあの少年こそ、中盤から終盤で急激に「汚れて」いく主人公本人で間違い無いんです。
最初の主人公の少年がおり、序盤とそれ以降で別人みたいな2人目の主人公がいて、どこで切り替わったのかわかりにくい…名前すらそっくり…と言うのは「巧拙」で言うなら「巧」とは言えないでしょう。
もう一度繰り返しますが、あの「第一話」の純粋無垢な子供たちは第二部の麻薬カルテルのボスとあのおばちゃんですからね。
今風に言えば「炎上」したこと
さて、時代的にインターネットの勃興期に連載されていたのですが、今風に言えば「炎上」した展開もありました。
地元の娼婦の一人の儚げな美少女も「共に戦う」のですが、…若干ネタバレになりますが…ちょっと「ありえない」死にざまを晒します。
戦争を描いた漫画に死者はつきものです。それこそ「女子供」も無残に殺されます。
しかし、「上半身のみが原形をとどめ、下半身が吹き飛ばされた状態で臓物がまき散らされ」た状態で死ぬことは「エンターテインメント」作品ではちょっとありえないでしょう。
たかがコミックでありながら「幾らなんでもこの殺し方は無い」と軽く「炎上」状態となりました。
それも彼女は「ほぼ犬死に」であり、「あれ?助かったのかな?」と思って振り向くと自分の下半身が無い…という鬼みたいな展開です。
※この直後に問題のシーンが来るのですが流石に載せられないので買って読みましょう(3巻)。今なら電子版もあるよ(←回し者?)。
これが「北斗の拳」のモヒカンならいいでしょう。ただ、「名前のあるキャラクター」であれば「敵」ですらこんな死に方はしません。
それこそ「この子だけは生き残って欲しい」というキャラを狙い撃ちするかの様にグロテスクな殺し方をする「たちの悪さ」に慄然(りつぜん)としました。 ただ、それは「作品のパワー」にも繋がることは確かなんですが。
ぶっちゃけ後半になってもこの作風は変わりません。「まさかあのキャラがこんな死に方をするのか…」という展開がまだまだ沢山待っていて、ハッキリ「心が強く」無いと読めないコミックです。
読んでいてわからなくなったら、10巻の巻末を見返して、読む。
Web上の「EDEN」評はそれほど多くないのですが、その大半が「まとまっていない。難解で良く分からない」というものでした。 あと「非常にグロいので耐性の無い人にはキツい」。
この「逃亡ゲリラ編」とでもいうべき序盤のハイライトが終わると愈々(いよいよ)その様相を呈します。
舞台があちこちに分散し、一応主人公に定期的に話は戻ってくるものの半ば群像劇の様相を呈します。
ロクに説明もされない「作品内のみの専門用語」が頻出します。
原父(プロパテール)、アイオーン、クロージャー・ウィルス、グノーシス派、ノマド…
それこそ「ふらっと手に取った」アフタヌーンで「その回のみ」読んだ読者には「一体どういう物語で何の話なのか」もサッパリ分からないでしょう。(感想・前編の作品概要にも書きましたが、コミックス10巻の巻末に用語集があるので、それを見て参考にしましょう)
長編作品にはそうした傾向は無論ありますが、序盤を夢中になって読んでいた人が「久しぶりに」連載部分を読んでも何が何だかサッパリ分からないと思います。
人は「10年」もあれば何歳であれ周囲の環境が激変していると言います。
連載11年に及んだこの長編と付き合い続けるにあたり、どんな読者もそうであるように私もまた何度も引っ越しをし、周囲をリセットしたりと色々ありました。
そんな時「まとめて古本屋に売り飛ばそう」と「最後にもう一度」読んだことでやっと全貌…とまでは言いませんが「ある程度」把握することが出来た次第です(そして読み返して、これは手元に残しておこう、と決めたのでした)。
「新世紀エヴァンゲリオン」に非常に大きな影響を受けたコミック
実は「新世紀エヴァンゲリオン」に非常に大きな影響を受けたコミックです。
これは作者によるあとがき(1巻カバー後ろのそで部分)に明確に記されているので間違いないでしょう。
1995年から1996年に放送され、1997年の映画で最初の完結を迎えたこのアニメーションはその後5年いや10年はそのエピゴーネンを産み続ける巨大な影響力のある作品でした。
この時期に製作・放送されたアニメーションで「エヴァ」の影響を受けていない作品の方が少数派でしょう。 「EDEN」もそうした作品群の中の一作です。
「エヴァ」の主人公は「ガンダム」に比べてもより内向的、内省的になっていき、「お互いに近づきすぎると傷ついてしまう」ことを現した「ハリネズミのジレンマ」という心理学用語を有名にしたりしました。
「エヴァ」の主人公ロボット及び謎の侵略者(?)たる「使徒」はある種「バリア」の様な「ATフィールド」を張ることが出来、お互いにそれを無効化することで初めて直(じか)に触れる(攻撃する)ことが出来ます。
これが「人間の心理の壁」とダブルミーニングになっており、この手の重層的な意味の塗りこめの読み解きが大ブームになったものです。
「クロージャー・ウィルス」=遠藤版「ATフィールド」という解釈
「EDEN」の世界では「クロージャー・ウィルス」という病気が蔓延しています。
「エボラ出血熱」よりも強力に人間の外皮が硬直し、陶器の様になって動けなくなり、やがて死に至ります。
「クロージャー」とは「閉じる」と言う意味なので(逆に「開く」のが「ディスクロージャー」)、人間がどんどん内向きになっていくこととダブルミーニングになっている訳です。
そう、この「クロージャー・ウィルス」は遠藤版の「ATフィールド」だった訳です。
そしてこの世界には半人半獣みたいな「戦闘サイボーグ」みたいなのがいて、しょっちゅう画面を臓物まみれにする訳ですが、これもまた「クロージャー・ウィルス」を軍事利用した例なんですね。
一番最初の楽園みたいな展開と、そしてゲリラ戦闘においては局面が非常に分かりやすいのですが、いざそこを脱してみると、
「誰が、何の目的で、どんな行動をしているのか」
が非常に分かりにくいまま事態は進行を続けます。
大筋で言うと、主人公の妹奪還ルート、テロリストの身の上話、科学者たちによる地球に起こっている事態の把握。そしてその他…の4ルートくらいでしょうか。 あと、父親世代のマフィア話もあるかな。
非常にゆっくりと時間は流れるものの、緩やかに緩やかに事態はカタストロフィ(破局)に向かいます。
世界は先進国は平和でありつつも第三世界はテロに覆われ、やがて絶望する人々が増え続け、世界各地で「結晶」の様なものに都市が飲み込まれ続けます。
これは「新世紀エヴァンゲリオン」の「サードインパクト」であり、「風の谷のナウシカ」(漫画版)の「大海嘯」です。
漫画「EDEN」で何がやるせないかといっても、「絶対的なものは無い」という「世の無常」をSFを舞台に描き切っていること。
近未来なので医学も発達しているし、馬鹿馬鹿しいほど強い戦闘サイボーグみたいなのもいます。
なのに人は簡単に病気で死に、ドラッグのオーバードーズ(過剰摂取)で死に、テロに巻き込まれて死にます。
それこそ「厨二病」的SF漫画であったならば決して描かれないであろう「幼女素体の凄腕ハッカー」の爛(ただ)れた中年女時代のことも赤裸々に描いてしまいます。
どれほど隔絶したスーパー・パワーに見えていても必ずそれよりも上回る存在によって叩きのめされます。
登場人物(?)には、何というか「妖精」みたいな摩訶不思議な存在感で高みから見下ろしてくる奴らもいるんですが、こいつらは肝腎な時にクソの役にも立ちません(言い切った)。
↑ 見た目はこんな感じ。こいつら一体なんだったんだ…(大体わかるけど)
いざ何かが起こった時にそれを説明(?)してくれている積りなのかよく分からない高次元のご高説を垂れてくれるだけ。
最後に至って物語の結末は余りと言えば余りにも意外、順当と言えば順当に収束します。
個人的には「新世紀エヴァンゲリオン」はコミック版の終わり方がベストだと思っていて、これを20年前にさっさとアニメ化して綺麗サッパリ終わってさえいればこんなに引きずり回されないで済んだのに…と思います。
「新世紀エヴァンゲリオン」へのアンサーコミックス、なのでは
しかし、この「EDEN」の物語の収束もまた、エヴァンゲリオンのラストの一つの可能性と言えるのではないでしょうか。 これは遠藤浩輝氏による「新世紀エヴァンゲリオン」へのアンサーソング…いやアンサーコミックスなのでしょう。 随分回りくどいけどね(笑。
断絶も多く…というか断絶の方が多かったものの、連載第1回目を雑誌で読んで以来、10年以上のお付き合いをしてきました。
大袈裟に言えばともに人生を歩んできたあのキャラもこのキャラも、再び登場し、集合して最後の場面に向かい、そしてみんなの人生が終わって行き、物語のなんとも苦い結末が訪れます。
希望はあるものの、一体どう受け止めていいのか分かりません。
読者を子供の頃の、誰もいなくなった秋の夕暮みたいな気持にしてこの長編は幕を閉じます。
最後の最後に初登場した名前も聞いたことが無かったキャラが重要な位置を占めすぎだろうとか、やはり決して整理整頓されたとは言い難いストーリーテリングなど難は多いものの、やはり「力作」だと思います。
まとめ
漫画「EDEN 〜It’s an Endless World!〜」はこんな人におすすめ
- 壮大なスケールの物語を読みたい人
- 「新世紀エヴァンゲリオン」が好きな人
- 「EDEN 〜It’s an Endless World!〜」の序盤だけ読んで、脱落しちゃった人
何と言っても連載第1回目と、そしてしばらくの展開の美しさ。それだけでも読む価値ありです。
そして、どれほど主人公が汚れて行こうと、最後の最後まで描き切り、語り切って頂き、読者として読むことが出来た奇跡に感謝です。
余りにも壮大なスケールであるため、連載途中で中断してそのままになってしまったり、それこそ序盤で単行本1~2巻分描かれただけの「幻の未完作品」だったとしてもおかしくなかったのに、今のこの世界線では最後まで読むことが出来るのです。
存在は知っていたり、何よりも「最初の頃は読んでた」読者の皆さんに置かれましても、今こそ読むべき作品だと思います。
というか、途中で脱落してたそこのあなた!絶対に最後まで読むべきです!
勿論新規さんも大歓迎!(どこの回し者だ)
↓ということで、その連載第1回目が読めます。
講談社公式マンガアプリ「コミックDAYS」
P.S.(ちょっとネタバレあり)
遠藤先生の次回作「オールラウンダー廻」における主人公バカップルですが、「EDEN」中に結ばれることの無かった主人公たち悲恋のカップルの生まれ変わりみたいに勝手にイメージを重ねていて(時系列的には前になるんでしょうが)、ベタな描写ながら勝手に胸が熱くなったりしています。
番外編ででもつながりを匂わせてくれたり…はしないよね。