漫画「EDEN 〜It’s an Endless World!〜」全18巻完結 の感想・前編(BW)
漫画「EDEN 〜It’s an Endless World!〜」全18巻完結 の感想・前編です。
どうしても全巻の感想となると、ラストはネタバレしてませんが、途中のネタバレは仕方ないので、ご了承ください。
この記事を書いている人:BW(この記事は、2018年9月3日にシーサーブログ「遊星からのブログX」であげた記事に加筆・修正したものです。)
作品概要・あらすじ・どこで読めるか
作品概要
Wikipediaより
『EDEN 〜It’s an Endless World!〜』(エデン イッツ・アン・エンドレス・ワールド)は、遠藤浩輝による日本のSF漫画作品。講談社『月刊アフタヌーン』にて1997年11月号より連載され、2008年8月号にて完結している。作者の初連載作品であり代表作。単行本は全18巻。
あらすじ
正体不明のウイルスの大流行によって人類が危機に直面した世界。
少年エノアと少女ハナはウイルスによる病魔(硬質化していく病気)に冒された末期状態の科学者と共に、3人で暮らしていた。世界はもう、自分たちだけだと思っていた。
ある日、エノア達のもとへ軍用ヘリが降り立った。原父(プロパテール)を名乗る彼らはエノア達と暮らす科学者を連れ去ろうとするが、エノアはロボットのケルビムにて応戦し、その圧倒的破壊力で勝利する。彼らの襲撃により“世界はまだ終わっていない”ことを知ったエノア達は、科学者の死後、2人で生きていくことを選択する。
もうエノアたちだけしか生き残っていないと思っていたが、実はウイルスによって失われた世界の人口は、わずか全体の15%だった。
それから20年後、原父は、「原父連邦」と呼ばれる巨大政権を構築。しかし経済格差や民族間の差別、そのことが原因による犯罪や殺し合いといった問題は未だ解決出来ずにいた。少年エノアは大人になり、麻薬カルテルのボスとなって一時は原父に協力。だが原父連邦の陰謀を知ってからは、敵対する立場となった。
一方、エノアとハナの息子の「エリヤ」は南米にいた。ひょんなことから謎のディスクを手に入れる。旅の途中で南米最大のマフィアのボスとなった父エノアの部下であるトニーやニッコーと再会。原父連邦とは何をしているのか、ウイルスの秘密とは、エリヤの拾ったディスクの中身が何だったのか、次第に明らかになっていく。
漫画「EDEN 〜It’s an Endless World!〜」はどこで読めるか
紙の本
紙の本だと、中古で手に入ります。
電子書籍
楽天、Yahoo、Amazonなど電子書籍もあります。
無料漫画アプリ、マンガWEB
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感想(前編)
当時の、個人的な印象
連載期間は1997年~2008年。
月1回の発行、月刊ペースということもあって、完結まで実に11年の歳月を費やしました。連載期間が長いこともあって、この時期アフタヌーンを読んでいた人も何となく目にしたことはあるのではないでしょうか。
個人的な印象としては、近未来を舞台にしたサイバーパンク・セックス&ドラッグ&バイオレンス・ハードよりS Fというところです。ただし、そのバイオレンスレベルは生半可なスプラッタ映画を軽く凌駕します。(※残酷な描写が苦手な人はご注意を!当時は残酷描写があまりに酷いと話題になりました。)
全体としては群像劇で、主人公的な立ち位置のエリヤ君は、登場しない話も多いです。
主人公は、巨人を駆逐するだとか、海賊王になるだとか、の明確な目標があるわけではなく、流されるまま舞台を大きく移動しながらその都度、最善を尽くします。そのため、ある時は学園もの、ある時は特殊部隊もの、またある時は感動の家族ドラマと展開は多彩です。正直、別の漫画を読んでいるようです。それはそれでいいのですが、「何かどうなってたっけ?」とわからなくなることが多い。
これから読む人は、10巻の巻末に用語集や簡単な人物相関図があるので、それを見ながらだと少し理解の助けになるかもしれません(ネタバレしてないのでご安心を)。
読み進めると、登場人物たちの回想シーンが途中で多く入ります。回想シーンが割と長めなので、そこだけ読んでいても面白いのですが、全体のストーリーを理解するには、月刊連載だけだと分かりにくくなってくるので、やはりコミックスで一気にまとめて読む方がわかりやすかったです。
↑年紀の入ったEDEN1巻。序盤は当時、何度も読みました。
SF活劇だけど、それだけではない
近未来を舞台に描かれるSF活劇…ではあるんですが、そこでスピルバーグの映画みたいに血沸き肉躍るサスペンスを…少なくとも全編に渡って…期待すると面食らうことになります。
↑2巻。ミリタリー設定に目を見張るものあり!
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確かに架空とはいえ、ミリタリー設定や展開は目を見張るものがあります。
幼女の素体に入った妙齢の女性である凄腕ハッカーが山岳地帯のゲリラの一員として軍隊を相手に丁々発止の闘いを繰り広げる下りは、全身のあちこちからコードを伸ばした「厨二病」的ビジュアルも相俟って一番「分かりやすく燃える」下りでしょう。
↑3巻。自らサイバー幼女になったソフィアさん(経産婦)
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終盤になってこの時に活躍したキャラクターたちが再登場するのは物語の展開の都合もあるでしょうが、やはりこの部分が最も人気だからでしょうね。
人工衛星をハッキングして相手方のモニターする画像を欺瞞したり、飛んでくるミサイルを空中でハッキングして軌道を変えたりと、それこそ「士郎正宗かウィリアム・ギブスンか」「映画みたい」な「血沸き肉躍る」展開が続きます。
例え先行の類似作品があったとしてもね。
↑4巻。ケンジの勇姿!
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10年以上も連載が続いたのは、物語序盤の面白さを読者が期待し続けたからと言えるかもしれません。かくいう私もそういうところがあります。
↑5巻。ロン毛の方、最後まで読んでも何やったんだろ・・・。
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遠藤浩輝氏は「モチーフとテーマの連動」が非常に上手い描き手という印象があります。
例えばコミックス2巻の第5話「世界のかけら」にて、人型のロボットを敵と戦うに当たって起動させる必要(2巻4ページ参照)が出て来ます。
後述しますが、この時の主人公はゲリラグループに拉致された人質ではあるのですが、背に腹は代えられないと一時的に共闘することになります。
といっても、そのロボットを単なる素人である少年が操縦する訳ではありません。
「人間の目を通してロボットの人工知能に意識を集中させ続けるため、ただ『見ていろ』」というわけ。
これはちょっと説明が必要かもしれません。
現時点において機械と人間の差異は幾つもあるのですが、人間は視界に入ったもの「全て」を「平等に」意識配分している訳ではありません。
これは感覚的に分かりますよね?
「そういうこと」は機械には難しい訳です。それを「人間の目」を通して補助しようという訳。
近未来なので、「本来であるならば」その程度のことは可能なんですが、ロクな電子装備も無いゲリラたちが乏しい装備でどうにかやりくりする中で「必然的に」飛び出してきたシチュエーションです。
↑6巻。過酷な運命のヘレナさん。覚悟して読むように。
***
この時に主人公が何と言われるか。
プログラムの都合上、視界が生き続けてさえいれば何とかなるけども、「目をつぶって」しまうと一時的に視界が中断されてシステムがシャットダウンしてしまうとのこと。
「どれほど残酷なことが起こっても、目を逸らすのはいいが、目をつぶるな」とね。
そして案の定、これまで孤独な旅を共に過ごしてきた「相棒」たる武骨なロボットは敵兵を引きちぎり、すり潰します。
遠藤漫画で多くの読者が最初に引っ掛かる「とにかくグロイ」スプラッター死体になる敵兵。
思わず絶叫する主人公。しかし、目をつぶればシステムがシャットダウンしてみんな死んでしまいます。どれほど悲惨で残酷な光景が展開しようとも決して「目をつぶる」訳にはいかないのです。
…余りにも図った様に見事な設定。
この「何が起こっても目をつぶるな」という舞台建てが「悲惨な現実」とダブルミーニングになっていることは説明するまでも無いでしょう。
…こう言うマンガなのですね。
ここまでは面白そうなんですよ。
この「ゲリラに拾われた主人公」がゲリラともども繰り広げる山岳戦闘は、地元で拾った娼婦なども含まれており、まるでストックホルム症候群の様に共に戦い続けるのですが…。
ここに至るまでにもとても印象的な展開をしています。
そもそもまるで「ゾンビハザード」後の世界であるかのごとく、世界には人が石膏像の様に固まって死に至るウィルスが蔓延している…という状態から幕を開けます。
閉鎖されたごく小さなコミュニティに所属する少年と少女は、「新世代」なのかこのウィルスに感染せずに済んでいます。
次々にウィルスに犯されて死んでいく大人たち。
そして、武器を取って殺し合う大人たち。
たった一人取り残された儚げな美少年は、人間が一人もいなくなった緑豊かな地球に向かって旅を続けるのだった…。
という、物凄くロマン溢れる幕開けになっています。
野暮を承知で筆を滑らせると「エデン」とは旧約聖書に書かれた土地の名前で、ここに住んでいたアダムとイブは「知恵の実」(実はリンゴだとはどこにも書いてないそうです)を食べるという「原罪」を犯したことで、神から追放されてしまいます。
なので、キリスト教の世界観だと人間は生まれながら「原罪」を背負った存在として生まれて来ます。
そしてありとあらゆる「理想郷」は必ず「(追放前の)エデンの園」であって、その時代に帰りたいと思うものなのだとか。
この「エデン」というマンガの冒頭だけ読めば、人類にたった2人だけ残された少年少女が次世代のアダムとイブとして生きていく…という風に読めます。
この「誰もいなくなった緑に覆われた地球」を少年が徘徊する展開はしばらく続き、その都度とても詩的で印象的な独白が続く実に美しいコミックです。
↑8巻。全巻読み終わった後でこの表紙を見ましょう(鬼)
↑9巻。ケンジ再登場。それにしても違う映画2ー3本入っているみたいだった。
作者は何て凄い人なんだ…
「才気走った」という表現が似合うと言いますか、屈託なくこんな世界観を提示してくるこの作者は何て凄い人なんだ…と圧倒されます。
正直に白状してしまいますと、連載時にリアルタイムで読んでいましたが、まだ若かった私はこのコミックを読むのが苦痛でした。
余りにも瑞々しく素晴らしい才能の輝きに自分と引き比べてガックリしてしまうんですね。
今はごく平凡な仕事をしており、才能もクソも無いことを重々承知しているので平常心で読めますけど。
ちなみに1巻のアマゾンカスタマーレビューを読むと「とにかく1巻だけはいい」「この調子で続いて欲しかったけど、そうはならなかった」「この続きなどこの世のどこにも存在しない」と序盤が特にカルト的に偏愛されている様子が伝わってきます。
掲載雑誌が「アフタヌーン」と言うのも良かったですね。
講談社は集英社ほどは「アンケート」を重視せず、編集者主導で漫画を製作すると言われます。
要は、「少々面白くない展開が続いたとして」も即打ち切りにはなりません。
あの、ストーリーはともかく絵の下手さは如何(いかん)ともしがたい「進撃の巨人」が講談社からリリースされたことは決して故なきことではないのです。
仮に「寄生獣」がジャンプに連載されていたら序盤に打ち切られずとも、流石にバトル漫画になってトーナメントが始まったりはしないでしょうけど、もっと引き延ばされた可能性は大いにあります。
(EDEN 感想 後編 へ続く。)