「寄生獣」スピンオフ漫画の世界 その1 ネオ寄生獣
どこから読んでよいかわからない位、沢山出ているスピンオフ漫画は、2023年8月現在「ネオ寄生獣f」「ネオ寄生獣」(これもややこしくて、fの方が先に出てる)の三冊と、「寄生獣リバーシ」があります。
本稿では、「ネオ寄生獣」の三冊を扱います!
記事は、ぶらっくうっどが書いています。よろしくお願いします。
まずは大傑作漫画「寄生獣」のことからおさらい!
漫画「寄生獣」の概要
言わずと知れた「コミック界の奇跡」。100年に一作の大傑作です。
もう、何度読み返したか数えきれないほど・・・定期的に読み返しています。
いまさらこの作品を読んでいない人がこんな記事を読むとも思えないですが、一応、あらすじを説明しておきますね。
漫画「寄生獣」あらすじ
ある日、空からひっそりと舞い降り始めた、多数の正体不明の生物「パラサイト(寄生生物)」。
その生物は、鼻腔や耳孔から人間の頭に侵入し、脳を含めた頭部全体に寄生し全身を乗っ取り支配する。体を乗っ取った後は、まだ寄生されていない人間を捕食するという性質を持っていた。
自在に変形する寄生後の頭部は、様々な人間の顔に擬態することができる上に、刃物のように鋭く、かつ柔らかくしなやかにもなり、数名以上の人間を一瞬で切り裂くのだった。
「パラサイト(寄生生物)」は、高い学習能力で急速に知識や言葉を獲得し、人間社会に紛れ込んでいった・・・。
そんな中、平凡な高校生の泉新一に寄生したパラサイトは脳を支配することに失敗し、右手に寄生した。右手にちなみ「ミギー」と名乗るパラサイトと、新一の共同生活が始まる。
漫画「寄生獣」個人的出会い
連載開始は1990(平成2)年からと30年以上前となります。
私はまだ子供でしたが、友人から薦められて連載中の「アフタヌーン」を読んだのですが、当然ながらこんな長編大河ロマンを、とつぜん間の一話だけ読んでも全く分かりません。
いきなり人間のズタズタに切り裂かれた死体の山を見せつけられ、当時にしても野暮ったいと評せる主人公たちの絵柄に「拒否反応」とまでは言いませんが、余りピンとこずにそのまま放置してしまいました。
後に単行本にして7~8巻あたりで追いつき、単行本派ながら続きを楽しみに待つ状態となり、最終回の余りの展開に呆然となったことを覚えています。
「寄生獣」たちの人間の想像を超えたキテレツな変形ぶりに「これこそマンガならではだ!」と感動したものです。
その後、単にひたすら人間を食い殺すだけだった「寄生獣」たちは、元から決して頭が悪いわけではないため「自分たちの存在意義」について思弁を巡らせるに至ります。
生きることだけにひたすら貪欲で、目的のために最優先すべきは「自分の命」のみというある意味において「純粋な思考」をしている寄生獣たちは、確かに残酷にも見えますがある種の爽快感すら感じさせてくれるのです。
この辺りは拙稿の「エンタメ作品における悪の魅力」として一説捻っておりますので興味がある方はどうぞ。
ともあれ、決して単なる「残酷絵巻ショー」では終わらせず、読者を何度も落涙させ、全10巻で綺麗に完結してのけた伝説のコミックとなりました。
最終巻の幕切れを思い出すだけで何度も泣きそうになります。
漫画「寄生獣」があたえた影響
作者の岩明均氏は決して多作と言う訳ではなく、「寄生獣」が最大のヒット作にして代表作という事になると思います。
とにかくその「寄生獣」の造形のデタラメぶりは衝撃で、かの「ターミネーター2」の液体金属が影響を受けたというまことしやかな都市伝説が存在します。
時期的に考えても決してあり得ないことではなく、ジェームス・キャメロンは熱心なコミックファンという状況証拠もあります。
確かに「自由に変形するアイデアはターミネーターの1作目の頃からあった」なんて言っていますが、そのアイデアも元になったSF短編がらみで訴訟沙汰になっていることもあって…ねえ。
あ、私のオールタイムベスト映画は「ターミネーター1」です。
そういう説もあったくらいの話ね。
「寄生獣」完結後、20年の時を経てメディアミックス
20年間ほど映像化権が売られていた・・・という噂
ハリウッドに映像化権が売られており、それが期限切れになるまではメディアミックス展開出来なかったことそのものは事実らしく、2014年にやっと待望のTVアニメ化となりました。
日本で初のアニメ化「寄生獣 セイの格率」
私も見ましたが、放送開始前のキャラデザインの変更による炎上こそあったものの、ストーリーはあの大傑作そのままということもあって終盤には沈静化し、概ね好評をもって迎えられました。
更に実写映画化もされています。
完結後20年目にして突如「メディアミックス」展開が始まったわけです。
今回は、漫画「ネオ寄生獣f」「ネオ寄生獣」をご紹介
恐らく、本屋の片隅で見かけたことがあると思われますが、トリビュート短編集が複数存在します。
ただ、散発的に発売されている上に、タイトルにも統一性が無いため「何が何冊出ているのか」も分かりにくい状況です。
ということで、それらをご紹介しようと思います。
今回は全3冊(2023年8月現在)の短編集。全8巻の「寄生獣リバーシ」は別項にて。
- 「ネオ寄生獣f」(2015(平成25)年4月発売)
- 「ネオ寄生獣f(2)」(2015(平成25)年4月発売)
- 「ネオ寄生獣」(2016(平成26)年7月発売)
「ネオ寄生獣f」(2015(平成25)年4月発売)
「人の姿を乗っ取る」という非常に社会性に根差した存在である「寄生獣」の側面を見事に利用した「ちょっと怖い話」みたいなのもあれば、「寄生獣の友人」がいるという特殊状況において、実にしょーもない下ネタなどバラエティ豊か。
あと、個人的な偏見ですが「少女漫画」は割と「ホラー」に相性がいいため、少女漫画家の方が描く「寄生獣」設定の「怖い話」は実に収まりがいいですね。
意図的に「シリアス」と「コメディ」を交互に配置する編集もニクいところ。
それぞれの短編の最後についてくる作者コメントも同じ寄生獣ファンとしてほっこりできます。
全体的なクオリティとしては…良くできていますが「同人誌」と評するのが最も公平かと。
本家の「寄生獣」は名のある文学者さんやら哲学者さんにまで「人生で一番面白かった読み物」などと絶賛されている訳ですが、その後にこちらを読む必要があるかと言われると…。
とはいえ、数百円でこんな楽しい思いが出来ると思えば「買い」ですね。
「ネオ寄生獣f(2)」(2015(平成25)年4月発売)
こうして並べると「少女漫画的な世界観で、実は意外な人物が寄生されていました」というパターンが非常に多いことが分かります。
また、部屋中に飛び散った血しぶきや臓物といった残虐な場面をチラ見せする構造も同じ。
良くも悪くも「二次創作」というところ。
個人的には金田一蓮十郎先生の「その後いかがお過ごしですか?」がお気に入り。
意外な人物のその後を描き、本編で忘れられない人物で「あっ!」と読者が思い出し、それでいて決して本編に勝手な設定を付け加えたりせず、見たかった展開が見られる一遍です。
短いですが個人的に大好き。
あと、なるしまゆり先生の「アタラシキヒトツノ」もいいですねえ。
この短編集のフィナーレをしめくくるにふさわしい爽やかな一遍だと思います。
「ネオ寄生獣」(2016(平成26)年7月発売)
一冊だけ買うなら迷わずこれです。
既存2作のトリビュートも悪くはなかったのですが、ここで講談社は一気に「ビッグネーム」をずらりとそろえてきました。
単行本の発売日自体はこちらが一番最後となっていますが、「アフタヌーン」への掲載時期は散発的ながらほぼ同じです。
約2年に渡って掲載されたものをそれぞれにまとめてこの3冊になったという感じですね。
はっきり言って、この3冊の中ではビッグネームが多いだけにダントツで読み応えがあり、お買い得となっています。
では印象的な作品について一言ずつ。
「今夜もEat it」太田モアレ
こういうのが読みたかったんだよ!という、正に「寄生獣」の設定を最大限活かした人情噺。
細かいところで本編からのネタをちらほら入れて来るのも最高。
なんと寄生獣側が恐怖を感じてビビる場面なんかもあり。
読者側が最大限「ドキッ!」とする場面もあり。
極論すればこの一遍だけでも買った価値ありでした。
掲載順位が超大御所の次のほぼ冒頭であることも編集部も同じことを思っていたのではないかと。
「ルーシーとミギー」真島ヒロ
真島ヒロ先生といえば「FAIRY TAIL」で、なんとスピンオフどころかクロスオーバーしちゃってます。
実は「FAIRY TAIL」未読なんですが、決して安易なネタのみに頼った展開にしたりせず、しっかりとギャグマンガやりつつ「寄生獣」ならではの展開もあり、流石はベテランというところ。
「教えて!田宮良子先生」PEACH-PIT
「ウソでしょ!?」と言いたくなるほど執筆陣が豪華。
PEACH-PIT先生といえば当然「ローゼンメイデン」ですわな。
内容的にはそこまで斬新な切り口とかはないんですが、人気があって「好きなキャラ」には必ず名前のあがる割には少なくとも商業出版された二次創作にそれほど出てこない「田宮良子」が出て来るのがよかったので。
「変わりもの」熊倉隆敏
不勉強にしてこの先生のお名前は存じ上げなかったのですが、とにかく「漫画力」が抜群に高く、画面が緊張感で満ちています。
ミステリ、サスペンスとして一級品。
それでいて「寄生獣」の設定を最大限活かしているんですからもう最高。
ちなみにラストの「仕掛け」は「見開き」ページで観ないと分かりにくいので、スマホ・タブレットで電子版を読む方はご注意を。
「PERFECT SOLDIER」皆川亮二
思わず二度見。
そう、あの「スプリガン」の皆川亮二先生ですよ。ぶっちゃけ「ネオ寄生獣」なんてコミックタイトルじゃなくて、全面に押し出しても一人で売り上げをけん引できるビッグネーム。
「寄生獣」の凄まじい戦闘能力に特化した一遍。
平時の街中でもあれだけの戦闘力を発揮する「寄生獣」が何でもありの戦場に放り込まれれば当然こうなるよなあ…という。
更に本編中でも各国政府が「寄生獣」の存在に気付き始めているという描写もあったわけですが、実際に兵器として利用されたら?というお話。
正に「自分の得意分野を存分に発揮して『寄生獣』を料理する」という理想的な短編集です。
「ミギーの旅」植芝理一
そう、あの植芝ワールドが「寄生獣」で炸裂!…というか普通にいつもの植芝漫画でしたね(笑。
依頼されるにあたって「寄生獣」要素を一部でも含んでいれば何やってもいい、といわれていたそうです。
普通に楽しいです。
猛烈にネタが多いんですが、「ヒストリエ(*)」をこすりまくるのが何とも…(苦笑)。
*岩明先生の次の長編で、かなり長期にわたって連載中断中。「完結が難しいであろう漫画」としてよくネタにあがる。
これは絶対に「見開き」で読むこと!
「EDIBLE」遠藤浩輝
お茶を飲んでいたら思わず噴き出したでしょう。
そう、あの「EDEN」(←記事はこちら)の遠藤先生ですよ!こ、こんなとこにも描いとったんかいワレぇ!って感じ。ファンには超特大の嬉しいサプライズ!
こちらは皆川亮二先生の「PERFECT SOLDIER」が現代の戦場であるのに対し、近未来のSF世界。
臓物はじけ飛ぶ世界観は正にベストマッチ。
そういえば「EDEN」の「アイオーン」の変形ぶりは「寄生獣」を思い出させるものがあったもんです。
ちょっと冗談じゃないですよ!正にこれから「アバター」シリーズの様な壮大な大作SFの幕開けの一遍になっちゃってるじゃないですか!
映画一本観たくらいの満足度。最高。
「寄生!江古田ちゃん!」瀧波ユカリ
元ネタ(?)の「臨死!江古田ちゃん!」を知らないと面白さも半減なんですが、要するに「エロ版寄生獣ギャグマンガ」です。
なんと女性の「下半身」に寄生したため、「下半身だけ寄生獣になった女性の」…ってもう説明いいよね?
「捕食トラッカーGAG アゴなしゲンとオレは寄生獣」平本アキラ
アホです。
本当に最低。(よい意味で)
でも本編の絵そのまんまで巧みに引用した場面が「本編」を思い出させ、その後のギャグの組み合わせで爆笑。
何でこれが最後なんだよ!構成考えろ!…とは思うものの、まあそうなるよな…と言う感じ。
まとめ:読んでみれば、抜群に面白い!
トリビュートコミック文化ってこれだけ漫画先進国ってことになっているわが国でもそれほどはありません。
そのうち「ブラックジャックトリビュート漫画の世界」とかもやりたいんですが、それが目立つってことはそれほど数は多くないんですよね。そりゃ同人市場は別ですけど。
「実力と実績のあるベテラン漫画家」で「現役バリバリ」で「元ネタに愛着がある」人を集めるとこんなに面白くなるんだ!という当たり前のことが実感できました。
30年前の漫画のトリビュート・・・という、若干敷居が高いですが、読んでみれば抜群に面白い!漫画ファンは読んで欲しい。特に「ネオ寄生獣」は超おすすめです。
あ、勿論「寄生獣」は、人類ならマスト!!です。