追悼・唐沢俊一さんの思い出
記事は、ぶらっくうっどが書いてます。
よろしくお願いします。
唐沢俊一さんはどういう人?
オタク第一世代のサブカル怪人
私が一言で唐沢さんのことを表すなら、ご本人が似たようなこともおっしゃってましたが、
「オタク第一世代のサブカル怪人」
でしょうか。
Wikipediaにはこうあります。
唐沢 俊一(からさわ しゅんいち、1958年5月22日 – 2024年9月24日)は、日本のカルト物件評論家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ、劇作家、演出家。元朝日新聞書評委員。
サブカルチャー、カルトとされる文化や物件について幅広い関心を持つ。書籍・映像・音楽・雑貨など昭和期における事物を今日的視点からB級文化として紹介することをライフワークとしていた。また、オタク文化の評論家として、各種メディアでのコメンテーターや、日本オタク大賞といったイベントの審査員を務めた。
Wikipediaより引用
生前の唐沢氏と会った時の思い出
コミケ出展していた「と学会」でのこと
筆者(ぶらっくうっど)は生前の唐沢氏に会ったことがあります。
いや、それどころか、お土産を渡し、ファンである旨を伝え、著書にサインをもらったことがあります。
といっても、会うことそれ自体は簡単です。
何しろコミケことコミックマーケットの「と学会」ブースに行けば「売り子」として堂々と座っていらっしゃるのですから。
その時のやりとり。
私が同人誌(700円)を購入し、その場に置いてあったパンフレットを当たり前の様に手に取って同人誌と一緒に手に持った時のこと。
唐沢氏「あ、それ有料だよ。金取るよ(笑)」
要するに同人誌とパンフレット(300円)を一緒に購入することで綺麗に「1,000円」になるので、300円という値付けをしていた…というお話です。
これをもって「せこい」という方もいらっしゃるでしょうが、膨大な「おつり」の準備などを考えるとこれはこれでありです。
著書にサインを貰ったのは確かその時だけだったんですが、その後確か2回ほどコミケで出会い、その都度地元のお菓子なんかをお土産に持って行き、軽く雑談をしたものでした。
私の弟なんて、映画「ゴジラ(1984)」に関して話をすることが出来たとのこと(羨ましい)。
曰く「あの映画はタイトルが良かったね」とのことでした。
著書も膨大なので全てを新刊で購入することは出来ていませんでしたが、一般流通に乗った著書の大半は購入しています。
何しろサブカル・オタク方面の方なので著書の半分が「同人誌」(体感)。
実際に揃えるとなると、コミケに行ったりするしかありません。
同人誌で力を入れていた「死亡した著名人について」の本
なぜか特に力を入れていたのが「死亡した著名人について」の本でした。
確かにインターネット時代なので、検索して調べれば誰でもある程度は書けるとはいえ、そこは流石の筆力でかなり面白く読めました。一時は芸能事務所の社長をしていただけのことはあり、意外な人の「知り合いの知り合い」だったりして結構面白かったです。
まあ、その多くが「自分がその役者の出演作を初めて観た時の思い出」とかの自分語りが多くはあったのですが、それでもある程度読ませるのは流石というところでした。
唐沢俊一さんという名前のイメージ
ネガティブなイメージを抱く方が多い印象
唐沢俊一(からさわ・しゅんいち)という名前を聞いて、ネガティブなイメージを抱く人の方が現状では残念ながら多い印象です。
大抵は亡くなった直後には賞賛や追悼のメッセージが並ぶものなんですが、亡くなった直後にこうもネガティブな書き込みが多くなされるなんてスティーブ・ジョブス以来なんじゃないでしょうか(大げさ)。
Wikipediaの紹介だと「色んな事をやってる文化人」程度しか分かりませんが、我々オタク第二世代以降にとっては「オタクのご意見番」みたいな存在でした。
というか、オタク界隈にあっては間違いなく「一時代を築いた人」です。
まあ、オタク第三世代以降にとっては「何やってる人なのかさっぱりわからんけど、なんだか偉そうな人」という感じかもしれませんが(爆。
先日亡くなった山本弘(やまもと・ひろし)氏と並んで「と学会」の中心メンバーだったということでオタクにはつとに知られていました。
また岡田斗司夫・眠田直と組んでの「オタクアミーゴス」というユニットの「オタク語り芸」はまだインターネット黎明期においては絶大な影響力がありました。
今この書籍を読んでも「面白ホームページ紹介」などは古色蒼然という感じですが、インターネット黎明期にはまだこの方々の情報アドバンテージは間違いなくあったのです。
「世界のトンデモ自作特撮ビデオ」なんてのがYoutubeに溢れ始める遥かに前に、VHSで直接交換で入手してきた次代のレジェンドたちです。物量が違います。
さらに「自分は何オタクか?と問われれば「古書オタク」だと答える」と自称していた通り、「古書マニア・コレクター」としての一面も強かったです。
一般的には「トリビアの泉」という「役に立たない豆知識」番組の元ネタとなった「一行知識の世界」で有名かもしれません。
この「一行知識」はかなりシリーズ化されて私なんかは貪るように読んだものです。
ただ、あちこちに手を伸ばした(…というか、オタク第一世代くらいだと放っておいても雑知識の方から寄ってきます)中で「やらかし」をしてしまいます。
「新・UFO入門」という本の「盗作騒動」
それが「新・UFO入門」という本の「盗作騒動」でした。
一つ言っておきたいのは、「ファンの欲目」という面はあるにしてもこの書籍は非常に面白いものである…ということです。
当然、当時の本は絶版なんですが読まずに非難するには本当に惜しい労作です。
新書で再販されたものをリンクしておきます
UFOというと非常に「キワモノ」であり、それを扱う書籍ともなれば「宇宙人はとっくに地球に住んでいる」と頭から信じるビリーバー(信者)によるものか、あるいは「そもそもバカバカしい」と頭から小ばかにして掛かるかの両極端なものしかありませんでした。
この本はそのどちらの立場にも立たず「UFOというものを巡って人々はこんな風に踊ってきた」とでもいうべきものです。
盗作・剽窃とされた複数の個所にしても出典をしっかりと明記し、貴重な事実を発掘してくれたブログ等に感謝を述べた上で行えば何の問題もありませんでした。
残念ながらこの「盗作騒動」をきっかけに長年の盟友・山本弘氏とも絶縁状態となり、事実上表立った出版ライターとしての命脈は断たれる形となってしまいます。
イッセー尾形氏をはじめとして多くの著名人と関わるも、その後多くの場合絶縁に至っていることから、やはり人間関係を継続しがたいものがあったのかもしれません。
この辺りは軽く会話をしたことがある程度の私には分かりません。
唐沢俊一氏の晩年
舞台業を中心に活動
晩年はほれ込んだ女優に入れ込むあまりか舞台業を中心に活動されていましたが、いわゆる「ツイ廃」(ツイッター廃人)の面も強く、常に何かつぶやいている感じでした。
亡くなる寸前にはいわゆる「希死観念」(死にたいと望む)に摂りつかれていたのか、何かというと「死にたい」とか「死んだらどうなる」といったツイートが多くなっていてファン(私含む)を心配させました。
私も「ならばその希死観念を作品に昇華させては」なんてことを書いたものです。恐らくご本人は「あの土産を持ってきたやつ」と認識は出来ていなかったでしょうが、「一行知識で随分モテた」みたいなリプにも反応してくれました。
毀誉褒貶が激しい…というか、やはり深くかかわった人は厳しい意見が多い模様です。
弟との確執
特に弟の唐沢なをき氏との確執は有名でした。
唐沢なをき氏といえば一般的な知名度はそれほど無いでしょうが、マンガファンにとっては「天才」です。
しかも、ただ「天才」なだけでは無くて、「地に足の着いた堅実な創作活動」をされているという印象です。
もともと才能豊かで、しかもそれをしっかり運営し、社会的地位を築いている弟さんにとってみれば、…言い方は申し訳ないんですが…「口八丁」で決して自ら創作をするタイプではなく、根無し草同然にふらふらし、真面目にやってる人をからかって面白がっているタイプ…のお兄さんとはウマが合わないだろうな…とは思っていました。
弟さんには20年前に絶縁され、奥さんとも離婚され、関係者の多くに絶縁され、最後は「孤独死」ではなかなか寂しいものがあります。
死亡報告における、なをき氏の「吐き捨てるような」物言いからかなりの確執がうかがわれます。
SNSの発言も、現状を嘆いてのものだったのでしょう。
盗作騒動あたりから、無断引用があるのかの検証が始まった
「盗作」騒動あたりから、過去の著作にも実はかなり「無断引用」があるのではないか?といった疑惑が掘り起こされ、「唐沢俊一盗作検証専門ブログ」まで作られてコメント欄が活況を呈していた時期すらありました。
また、「宇宙戦艦ヤマト」のリバイバルブームの火付け役となったとされる「北海道におけるファン活動」の中心メンバーだった…という「唐沢俊一といえばこれ」という有名エピソードにしても、過去の発言の変遷や、いわば「アリバイの検証」までされたものです。
客観的に見るならば、やはりそうした事実が全くないということは無いものの、唐沢氏が中心メンバーだったということはいいがたいと思われます。
ただ、西崎Pとの生々しい会話は創作とも思いにくいのですが…。
また「ガンダム批評論争」もありました。
要するに唐沢氏が「今なんだか流行っているみたいだが、あの「ガンダム」とやらは下らない」みたいな適当なことを言い、それに対して大勢がのっかってきて雑誌の紙面上で大論争となり、遂には手塚治虫氏までが参戦。
最終的には富野由悠季監督までが意見を表明するに至るという、オタク界隈の中での「プチ大事件」です。
これまた詳細に調べ上げたブログ記事その他が存在するのですが、それらを読み込んだファン(筆者です)から言わせてもらっても唐沢氏の立場は
「言いたいだけ言って事態を引っ掻き回した上、最後は逃げた」
様にしか見えませんでした。
いろんな意味で「オタク第一世代」の人だったなあ…という感想です。
ここでオタク論を始めるとキリがないのですが、「オタク第一世代」は「シラケ世代」とぴったり重なります。
簡単に言えば「アニメ・マンガごときに本気になるなんてみっともない」というスタンスも大いに持っている世代です。
彼らが「新世紀エヴァンゲリオン」の騒動の際、アニメ本編も観ることなく何を言っていたか。
それは「ファンを揶揄する」ことでした。
作品を褒めたりけなしたりするのではなく「そんなものにマジになっちゃってるみっともない奴ら」であるファンをからかい始めたのです。
「悪いこと言わないからアニメごときにそこまで熱を上げるのはやめときなさい。ヤマトで懲りた我々が言うんだから間違いないって」
…という立場です。
私も唐沢氏のファンですが、一言いいたい。
「大きなお世話だ」と。
唐沢氏とある意味で同じ立ち位置(?)な岡田斗司夫氏
実際、岡田斗司夫は綾波レイに熱を上げているライターに対して
「惜しい人を亡くしたよね」
などと冷やかしたために訴訟沙汰になりました。真っ青になって謝罪したもののこれほどダサいことはないでしょう。
あれ、「惜しい人を亡くした」て誰のこと?
ライターさんのことを「文化的に⚫︎んでる」って馬鹿にしたってこと
あーそういうこと・・・。本当に余計なお世話だねぇ・・・
信念があるなら謝るんではなくて更に追い打ちをかけないと。
要するに彼らは期せずして「最も唾棄すべきオタク第一世代ムーブ」をやらかしているのです。信念も何もない。その場その場で条件反射で適当なことを言ってるだけです。
何しろ岡田斗司夫氏が当時言っていたのは
「今一番楽しい遊びは、アニメファンに「新世紀エヴァンゲリオン」について質問し、最終回(*)について見解を尋ね、真っ赤になって色んな事を言い始めるのを観察して楽しむこと」
などと言っていたのです。
(*最終25・26話に至って本編と全く関係ないイメージフィルムみたいなものが流れ、唐突に終わってしまう。大論争を巻き起こした)
あれを聞いた時にはすっかりエヴァについて冷めていた私ですら「いつか刺されるぞ」と、はらわたが煮えくり返る気分でした。
後に「BSアニメ夜話」の「エヴァンゲリオン回」に出演して「あの時はすまんかった」みたいなことを言ったりしてましたが
「は?「すまんかった」じゃねえよな?手をついて謝れよ!」
とテレビの前で絶叫したのは私だけではありますまい。
ただ、正真正銘「評論家」として自分で一切作品を作り出すことなく既存作に対してあーだこーだ言ってるだけの岡田斗司夫氏をはじめとしたオタク第一世代に比べても、唐沢俊一氏はまだ
「自分で作品を作り出す」
側の人だったとは思います。
唐沢俊一氏の著書
肩の力を抜いて楽しめる著書
自らのルーツである「薬局」がらみの著作や
ハゲに関してのみ絞って語った本
などもあります。また「日記文学」の面白さに目覚めて「オタク日記文学」を目指した「裏モノ日記」など
肩の力を抜いて読める著作も多数でした。
個人的には「古書業界を活性化させるためには、それこそジャニーズのイケメンを使った「古書ドラマ」でもやるべき。そうなったならば不詳この私も力になりますぞ!(大意)」といったことまで書いていて、「頼もしい!」と思ったものです。
実際、こうしたニッチ市場を取り扱ったドラマをジャニーズと売り出し中の若手女優のラブコメにして、「クセ者」の古本屋のオヤジたちと丁々発止渡り合うドラマなんてかなり面白そうです。
まあ、もちろん実現はしていないんですが。
それこそ、「新刊」で唐沢俊一の名前があれば必ず買う程度にはファンだったんです。
なんというか、あのヒネた屈折した文体とか、他人事に思えなかったんですよね。勝手にそういう「親近感」を抱いていたファンは多かったんじゃないでしょうか。
とはいえ、晩年は「自慢の蔵書」もイベントでファンに寄付してしまったり、なをき氏の言説を信じるならば「お金の無心」も激しかったそうなので、それらの著書によって莫大な資産を築くことが出来たわけではなかったみたいですね。
日々のリプに混ざって編集者からの怒りの催促があったのも見ていて非常に複雑でした。
原稿の督促ってこと?
そう、当時Twitterで編集者がリプに直接書き込んでた
何しろ自己言及が激しいオタク第一世代です。自らの最後がこれで良かったのかは聞いてみなくては分かりませんが、サブカル世代、オタク第一世代がそろそろ「老衰で死亡」する時期に差し掛かっています。
きっと個人的な親交に至れば絶縁するタイプの人だったのでしょうが、私は間違いなく値段分、いや値段以上に楽しませていただきました。
著書を通じて感じていたこと
本当に楽しかった!
著書を通じて、まるでオタクの自分のアニキと会話してるみたいな気持ちになったことも一度や二度ではありません。
本当に楽しかった。
一度でいいから一緒に飲んだりしてみたかったなあ。
私はお酒は飲めないんですが、オタクのバカ話とかなら出来そうなので。
本当に有難うございました。
ご冥福をお祈りいたします。
あっちの世界で先に「オタクライブラリ」でも作っておいてください(^^。
おまけ:唐沢俊一さんの著書、個人的におすすめな本!
「新・UFO入門」
まず、一つめは、手に入りやすい「新・UFO入門」です。
前述した通り「UFOというものを巡って人々はこんな風に踊ってきた」ということを中立な立場から書いており、とても面白く内容に興味があるなら、かなりおすすめです。(引用したブログ等があるなら、出典を明記しておけば良かったのです・・・)
古本マニア雑学ノート
あともう一冊は、古本でしかないんですけど「古本マニア雑学ノート:人生に大切なことはすべて古本屋で学んだ」
古本業界に巣食う、古本廃人たちの狂態(きょうたい)を知ることができて面白いです!
古本マニアの本が、古本でしかないのも面白いね
そうだね。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!